巣鴨地蔵手前の一番高いビルの地下に「さんみや」という鴨料理屋がある。
マスターは酒好きのサラリーマンであったが、 「昔、親父が文士がよく来る鴨料理屋をしていた。
俺も年だし、儲からんでもいいから、女房と始めたかった」 また、タチの悪い客は入れたくないので看板もろくに出さない。
道ゆく人はまず気が付かない。 客には「子供10人を躾ている親父」、
「突然全盲になった人」や 「元ボクサー」等、珍しい人が多い。 地酒は「千曲錦」、ウイスキーは「ニッカ」、 ビールは「エビス」の少数派。
つまみは「おでん」「煮込み」「さしみ」なんでも安い。 BGMは古いラジオである。
当時、「さんみや」は地下にあり、看板も地味で目立たず、固定客だけだった。無断でこの看板を出したが、マスターは 「珍しく新規客が続くので、どうしたのだろう」と不思議に思ったという。私もその中の客から「すぐ来い」と呼び出されて「さんみや」に行ったこともある。今も、その客との縁は続いている。「さんみや」は1999年末に閉店した。 (記 1987.02)